頼りになる倉本が帰ってきた。

2020年シーズン、好調を維持しているDeNAベイスターズ倉本寿彦選手。

ここ数年ほどネットで事あるごとに叩かれていた倉本選手ですが、とうとう復活を果たしました。

いったいどうしてここまで叩かれていたのか、どうして復活することができたのか。

今回は倉本選手に注目してみました。

ここ数年叩かれ続けてきた倉本寿彦

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「残念そこは倉本」

この言葉がいい意味で使われることが増えてきました。

2020年シーズン、倉本寿彦選手が攻守にわたっていい働きを見せています。

打っては右に左に巧みな安打。プロ初の満塁ホームランも記録しました。

ショート守備でも堅実な動きを見せています。

 

ショートとしてフルイニング出場を果たした2017年シーズン

このころから、倉本選手には厳しい言葉が多数投げかけられるようになりました。

チームは日本シリーズに進出したにも関わらず、です。

そしてそれは2018年以降も、ますます強まっていきました。

緩慢な守備・淡泊な打撃

2019年に至っては2軍暮らしが長かったにも関わらず、批判の的になることすらありました。

いったいどうして、ここまで叩かれていたのでしょうか?

以前から守備範囲の狭さが指摘される

倉本寿彦選手は2014年のドラフト会議にて、横浜DeNAベイスターズへと入団しました。

日本新薬時代は社会人No.1ショートとして知られ、しかも地元の横浜高校出身。

ようやくベイスターズのショートを埋める選手が出てきたかと、期待されていたものです。

 

1年目はプロの壁に阻まれ、打率.205と低調な成績に終わってしまうものの、

打撃フォームをプロ仕様に変更して挑んだ2年目。

開幕から安定感のある打撃を見せ、9月まで3割をキープする大活躍を見せました。

6番ショートに定着し、打率.294(534-157)の好成績。157安打はチーム最多の数。

オフには「6番打者」「流し打ち」のテーマで球辞苑からのインタビューを受けるなど、巧打者としての道を歩み始めます。

 

しかし守備に関してはこのころから少しづつ厳しい声が上がるようになってきました。

UZRはショートでワーストの-12.7

エラーは少ないのですが、とにかく守備範囲が狭い。というよりも打球に対してのスタートが遅いといった方がいいでしょうか?

ファンのみならず、評論家の間でも指摘の声が出ていたほどです。

シーズン序盤はサードに守備範囲の広い白崎浩之選手がいたので何とかなっていましたが、

サードの選手が固定されなくなると、その守備範囲の狭さがどんどん露呈していきました。

 

それでも、ラミレス監督は倉本選手の守備を絶賛。

「倉本の守備は絶望を与える」

シーズンオフにはこのように語り、倉本選手への信頼を寄せます。

しかしこの発言が、まさかあんな形で取りざたされてしまうことになるとは……

2017年:日本シリーズで痛恨のエラー

2017年、倉本選手へのバッシングはさらに大きくなっていきます。

前年にレギュラーをつかんだ倉本選手は、この年も開幕からショートとして出場。

しかし全く打てない。

開幕3連戦をノーヒットで終えると、その後もなかなか調子が上がってきません。

守備でも精彩を欠くようなプレーを連発してしまい、ネットでは「倉本を外せ」の声が上がり始めます。

 

しかしラミレス監督、倉本選手を外さない。

なんと5月からは”9番ショート”で先発出場を続けさせました。

DH制のないセ・リーグでは、9番に投手を置くのが常識。

これまでのセリーグの常識を覆すこの采配は、かなりの物議をかもしました。

しかしラミレス監督はこの采配で1年間戦い抜き、倉本選手もショートとしてフルイニング出場を達成します。

 

この采配は倉本選手的には良かったのか、打撃面では復調を見せました。

5月以降は勝負強さを見せ、打点50を記録。

得点圏打率もセ・リーグ2位の.342(197-54)という好成績を記録します。

シーズントータルの打率も.262(507-133)と悪くない数字に。

下位打線の打者としては、かなり怖い存在だったのではないでしょうか?

 

しかし守備面では……

範囲の狭さは相変わらずなうえ、範囲内の打球ですらエラーしてしまうシーンが増えてしまいます。

失策数は前年の6から14と倍以上に。エラーにならずとも、動きの悪さで不要な内野安打を献上してしまうこともありました。

UZRも前年より悪化して-17.0という数字をたたき出してしまいます。

 

極めつけは日本シリーズでのプレーです。

この年ベイスターズはシーズン3位だったものの、阪神・巨人がともにCSで不調に陥り、19年ぶりの日本シリーズ進出を果たしました。

相手はソフトバンクホークス。

1戦目を落としてしまい、迎えた第2戦目、問題のプレーが起きてしまいます。

 

この試合はホークスが先制するも、ベイスターズが6回に3点を入れて逆転。

そのまま逃げ切りを図るべく、勝ちパターンの投手がつぎ込まれます。

しかし、柳田悠岐選手のタイムリーで1点差に詰められると、ランナー1塁2塁から打席には今宮健太選手。

打球はセカンドに強いゴロ。柴田竜拓選手がこれをうまくさばくと、そのまま回転してボールを2塁へ。

よし!ゲッツー

誰もがそう思ったその瞬間、ベースに入った倉本選手が落球

ランナーはオールセーフ。ピンチはさらに広がり、ここから逆転を許してしまいました。

 

この1シーズンで、倉本選手へのバッシングはかなり大きなものとなってしまいました。

YouTubeには倉本選手のまずい守備をまとめた動画が投稿される始末。

絶望を与える守備」がこれほどまで皮肉な使い方をされるとは……

ネタで叩く人、ガチで叩く人、温度感は人それぞれだったかもしれません。

ですがこの年以降、倉本選手のやらかしはすぐに拡散されるようになってしまいました。

オフには球界No.1の守備を誇る大和選手がFAで阪神から移籍。倉本選手の立場はさらに危ういものとなってしまいます。

2018年:正面のセカンドゴロを内野安打に

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2018年シーズン、ショートのポジションにいたのは倉本選手ではなく大和選手でした。

倉本選手はセカンドへコンバート。

それでもオープン戦では結果を残し、9番セカンドで開幕を迎えます。

ただ前年と違って、全くの固定ではありませんでした。セカンドで先発出場しつつ、試合終盤にはサードの守備固めに回るシーンもしばしば。

また大和選手の休養日には再びショートにつくこともありました。

セカンド守備では特に大きなやらかしを見せることはなく、サード守備も安定感がある。

打撃も前年と違って開幕から好調で、ネットも比較的落ち着いていました。

 

しかし5月29日、とうとう出てしまいます。

東北楽天ゴールデンイーグルスとの交流戦。倉本選手は6番セカンドで出場していました。

3回表、打席には茂木栄五郎選手。打球はセカンド正面へのゴロ。

しかし倉本選手は捕球後にトントンとステップを踏み、ゆっくりとファーストへ送球

茂木選手は打った瞬間に全力疾走しており、内野安打を許してしまいます。

誰がどう見ても緩慢なプレーです。

このプレーもYouTubeやSNSなどで拡散され、怒涛の勢いでバッシングが始まります。

試合は9-1でベイスターズが快勝しましたが、この2日後に倉本選手は2軍降格となってしまいました。

 

6月に1軍に戻ってくるものの、今度は打撃の調子が上がってきません。

ヒットが出ていないと、その淡泊な打撃が余計に目立ってしまいます。

初球から手を出しファールでカウントを悪くし、最後は外の変化球に三振orセカンドゴロ

こんな打席を何度見たことか。

その後の出番は代打・サードの守備固めがメイン、スタメンは相性のいい広島戦ばかりで、一気に出場機会を減らしてしまいました。

2019年:2軍戦のエラーすらもまとめられる

2019年シーズン、倉本選手はショート1本で勝負すると、首脳陣に直訴します。

ショートで自主トレを行い、オープン戦でもショートで積極的に起用されました。

しかしバッティングが絶不調。オープン戦も12試合で打率はわずかに.031(32-1)

当然ながらレギュラーをつかめるような成績ではありません。

開幕1軍には残るものの、その後も復調することはなく、すぐに2軍落ちしてしまいます。

 

しかし倉本選手、2軍でもその守備が取り上げられてしまいます。

ゴロを弾く、フライは落とす、ライナーも取り損ねる

挙句、牽制で刺されてしまうシーンも。

 

シーズン終盤に1軍に復帰しますが、代打で1本ヒットを放ったのみ。

ショート1本で勝負するどころか、来年の立場すらも怪しくなってしまいます。

2020年:頼りになる倉本が帰ってきた!

ですが2020年シーズン。

冒頭でも紹介したように、ここまで大活躍を見せています。

開幕こそ代打・代走での起用が続きましたが、7月ごろからスタメンでの出場機会を得ると、そこで結果を残します。

7月14日は7番ショートで出場し、2安打1打点

この試合を皮切りに、スタメン出場の日はマルチ安打を

8月9日のヤクルト戦では、自身2年ぶりのホームランを、プロ入り初の満塁ホームランで飾りました。

8月20日には3安打を放ち、こちらも2年ぶりの猛打賞を記録しました。

 

打席での内容も、かなり良くなりました。

今シーズンも初球から積極的に打つスタイルは変わらないのですが、ボール球の見極めがしっかりできるようになったと思います。

四球も選べていますし、打席の中での粘りが今までと全然違うのです。2016年のような逆方向への打球も増えました。

 

守備でも堅実さが復活。派手なプレーはありませんが、以前に比べると格段に動きが良くなりました。

打撃好調になってからはショート倉本選手、セカンド大和選手という二遊間を組むことも。

もう叩かれていた時の倉本選手はどこにもいません。

倉本寿彦は本当は熱い男

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この数年間の不調にも、原因がありました。

実は2016年シーズンの後半から腰に痛みを抱えており、満足なパフォーマンスができなくなっていたのです。

2017年にはすでに自分のイメージに体がついて行っておらず、さらに2018年のセカンドへのコンバートが追い打ちをかけました。

セカンドの動きはショートと真逆ですからね……

体は動かず、頭も混乱し、だんだんと自分の守備ができなくなってしまいました。

しかし2019年ごろから体のコンディションが徐々に改善されていっているようで、今年はイメージ通りに動けているそうです。

 

ですがこの3年間、どれだけ批判されても前を向いていられたのは、やっぱりファンのおかげでしょう。

倉本選手を応援するほど、彼が一生懸命にプレーしていることは伝わってきます。

日本シリーズのあのエラーの後だって、取り返そうと必死でした。

3戦目、サファテ選手との対戦。

負ければ後がない状況の中で、倉本選手は必死にボールに食らいつきました

結果としてヒットを打つことはできませんでしたが、必死の粘り決死のヘッドスライディング

あれで心を打たれない人なんているのでしょうか?

無気力そうに見えても、本当は熱い魂を持っている選手なんだって、みんな知っているんです。

 

たとえ2軍だろうと、声援を送り続けてくれるファンがいます。

倉本選手も少しでもそれにこたえようと、球場では1番遅くまでサイン対応をしていました。

今度は再び1軍の舞台に戻り、これまで以上の結果を残しています。

誰よりも悔しさを知っているからこそ、逆襲に期待がかかります。